自立支援に資する介護、「要介護度の改善」だけでない点で一致—介護給付費分科会(1)



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 自立支援に資する介護を行っている事業者へのインセンティブ付与の検討が求められているが、「自立」には▼心身機能・身体構造▼活動・参加—の両面からのアプロ―チが必要で、「要介護度の改善」のみを指標としたインセンティブ付与などは好ましくない—。

 23日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、委員の意見はこうした点で概ね一致しています。もっとも、2018年度の次期介護報酬改定において「自立支援に資する介護」をどのように評価するのか、具体化にはまだまだ議論が必要な状況です。

8月23日に開催された、「第145回 社会保障審議会 介護給付費分科会」
8月23日に開催された、「第145回 社会保障審議会 介護給付費分科会」

「要介護度改善=自立支援に資する」との短絡的な考えには与しない

 介護保険では「自立支援」を理念の1つに置いています。この点に関連して、今年(2017年)6月に閣議決定された未来投資戦略2017では「次期介護報酬改定(2018年度改定)で、効果のある自立支援について評価を行う」方針が示され、骨太方針2017(経済財政運営と改革の基本方針2017)でも「自立支援に向けた介護サービス事業者に対するインセンティブ付与のための『アウトカム等に応じた介護報酬のメリハリ付け』を検討し、2018年度介護報酬改定で対応する」こととされました(関連記事はこちらこちら)。

介護報酬について議論する介護給付費分科会では、このテーマについて23日に正面から議論を行いました。

この点、厚労省老健局老人保健課の鈴木健彦課長は、▼自立の概念(自立とはそもそも何か)▼介護サービスの質の評価―について、次のような整理を行っています。

▼自立の概念:介護保険法では「要介護状態となった場合でも、可能な限り、居宅において有する能力に応じて自立した日常生活を営めるよう配慮する」などと規定しており、WHO(世界保健機関)のICF(国際生活機能分類、International Classification of Functioning , Disability and Health)では「心身機能・身体構造」と「活動・参加」の両面からアプローチする必要があるとしている

▼介護サービスの質の評価:アウトカム(利用者の状態改善など)の観点の評価が適していると過去の分科会で議論されたが、▽複数のサービスの中でどれが効果的であったかの判断が困難▽いわゆる「クリームスキミング」(アウトカム改善が見込まれる高齢者の選別など)が生じる可能性がある—といった課題もある

ここから、厚労省は、例えば「要介護度の改善=自立支援に資する」という単純な構造にはない、と考えていることが明確に分かります。

委員の多くも同様の考えのようです。利用者・家族の代表と言える田部井康夫委員(認知症の人と家族の会理事)は、「『状態改善=自立』と論じられることがあるが、一生懸命介護しても状態が改善しないケースもある」と指摘。

またサービス提供者サイドからは、「自立の資する介護についてエビデンスを求め過ぎれば『身体機能』に偏る。『精神』『活動』『社会参加』といった面も考慮しなければならない」(鈴木邦彦委員:日本医師会常任理事)、「医療と異なり、一度介護状態になれば元の状態に戻ることは難しい。どのように生活し、どういった最期を迎えたいかという利用者の希望に沿うことが自立支援である」(折茂健一郎参考人:全国老人保健施設協会副会長、東憲太郎委員の代理出席)、「身体機能だけでなく、社会生活、尊厳の保持も含めた状態改善が自立であり、本人の希望に沿った介護(伴走型介護)の実現を評価すべき」(瀬戸雅嗣委員:全国老人福祉施設協議会理事・統括幹事)、「自立支援には、機能向上の側面と機能補完の側面とあり、後者をないがしろにしてはいけない」(稲葉雅之委員:民間介護事業推進委員会代表委員)、といった意見が相次ぎました。

さらに、費用負担者側の委員からも、「アウトカム評価によってクリームスキミングが生じてはいけない」(本多伸行委員:健康保険組合連合会理事、伊藤彰久委員:日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)、「要介護度の改善だけを指標として介護サービスを評価すれば弊害も出る」(小林剛委員:全国健康保険協会理事長)、といった意見が出され、「効果のある介護サービスに評価を重点化していくべきだが、【効果=要介護度の改善】という単純な構図での評価は好ましくない」と考えていることが分かりました。

田部井委員が指摘するように、ともすると『要介護度の改善=自立支援の効果あり』『要介護度の改善度合いのみに着目して、介護サービス事業所を評価すべき』といった議論に陥りがちですが、厚労省、介護給付費分科会の委員は、こういった「短絡的な考え」には与しないことが明確になったと言えるでしょう。

「自立支援に資する」かどうかの判断を、どういった指標で行うべきか

 では、骨太方針2017などで指示されている「介護報酬への反映」などに向けて、どのような仕組みを考えていくべきでしょうか。仕組みの構築に向けては、(1)評価指標をどう考えるか(どういった指標で『自立に資する介護サービス』と判断するのか)(2)インセンティブは介護報酬で付与すべきか、他の仕組みを考慮すべきか—と、大きく分けて2つの論点があります。

まず(1)については、厚労省や委員の見解を踏まえ、身体機能だけでなく、「社会参加」や「活動」、さらには「利用者・入所者のQOL」をも加味するとなると、評価は相当難しくなります。

 この点について齋藤訓子委員(日本看護協会副会長)らは「排泄の自立や、褥瘡の状況などについて、入所時・サービス時からどれだけ改善したか、などのアウトカムに着目すべき」と具体的に提案。また前述のようにクリームスキミングの発生を防止するために、アウトカムだけでなく「プロセス」(どういった介護を行ったのか)と「ストラクチャー」(どういった体制を構築しているのか)をも加味した総合的な評価を行うべきとの意見も出されています。

 しかし、多くの委員から出されたのは「データの収集をまず行うべき」との指摘です。稲葉委員は「ケアプランそのものと自立支援との関係などを分析する必要がある」と指摘。井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)も「データ収集を進め、それを踏まえたインセンティブを付与すべき」と述べており、さらに折茂参考人は「介護分野でも『質の向上』などに関するデータベース構築が必要である。まずデータ提出に関するインセンティブ(例えばデータ提出加算など)を設けてはどうか」と提案しています。

 もっとも「介護サービスの質の評価」に関する研究を行っている松田晋也委員(産業医科大学教授)は、▼個々の利用者の課題にマッチした介護サービスを、利用者が納得して受ければ要介護度悪化は相当防止できる(ケアマネジメントの重要性)▼男性では家事援助について依存度が高く、配偶者がなくなると要介護度が悪化しやすい(性別による差異)▼公団住宅などの高層階に住む人では介護保険の利用割合が高い(住環境による差異)▼早期のリハビリはADL改善効果が高い(早期リハビリの重要性)▼肺炎などの感染症・褥瘡などの予防に力を入れている介護サービスでは、骨折や脳梗塞の利用者でも要介護の悪化を相当防止できる(予防的サービスの重要性)―など一定のエビデンスが蓄積されていることを紹介した上で、現場に研究結果・エビデンスが伝わっていない点について反省しています。

多くの委員が指摘するような「データの収集、エビデンスの構築」には相当の時間がかかります。この点について厚労省老健局老人保健課の担当者は「これまでの介護報酬改定でも、【社会参加支援加算】【在宅復帰・在宅療養支援機能加算】などのアウトカム評価を導入しており、そこでは一定のエビデンスをベースにしている。すでに厚労省が保有しているエビデンスもあり、新たな評価に結び付けられるものもあると思う」とコメントしており、新たなデータ収集をしなければ「自立支援の評価は行えない」というわけではなさそうです。具体的な評価指標については、秋以降の分科会論議を待つ必要があります。また将来的には厚労省が進める「データヘルス改革」における保健・医療・介護データベースに基づくエビデンスなども参照されることになるでしょう(関連記事はこちらこちら)。

一部自治体では「要介護度改善」に奨励金を支給

 このように評価指標が設定されたうえで、自立支援に資するサービスを行っている事業所について「介護報酬で評価を行うのか」、あるいは「介護報酬以外で評価を行うのか」というのが(2)の論点です。

前者であれば、「加算の新設」「基本報酬での評価」などが考えられ、後者であれば、例えば自治体が独自に行っている補助(例えば東京都品川区では、要介護度が改善した場合、介護報酬の軽減を補填するために、1段階改善当たり2万円の奨励金を支給)の全国展開などが考えられます。

介護給付費分科会には後者を選択する権能はありませんが、鈴木委員や瀬戸委員らは後者の「自治体事業」が好ましいとの見解を示しています。

また前者の介護報酬での評価に当たっても、本多委員や井上委員は「自治体の先行事業を研究する必要がある」と要望しています。また、介護報酬の中で「要介護度の改善に応じた加算」を設けるなどとした場合でも、▼一度、要介護度が改善した後に、介護を控えて要介護度を悪化させ、再度、改善を促すといった不適切事例をどう防止するのか▼利用者負担増にどう理解を求めるのか―など、さまざまな論点があり、秋以降の具体的な議論の中に注目が集まります。

自立支援に向けて、事業者・利用者双方の意識改革も重要課題

なお、こうした議論をする際に、「現在の介護報酬体系では、要介護度が改善すれば報酬(つまり事業所の収入)が低くなりディスインセンティブが生じている」と指摘されることがあります。

この点について武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は「例えば肺炎で入院した患者がいたとして、当初は多くの検査・投薬などが必要で診療報酬が高い(収入が多い)が、徐々に回復し診療報酬は減っていく(収入も減る)。しかし、こうした時に『収入が減るので困るな』という医師はいない。介護でも同様に考えるべきではないか」とコメントしています。例えば要介護度に着目すれば、改善は「事業者にとっても、利用者にとっても喜ばしい」ことのはずですが、事業者は「報酬が減ってしまう」、在宅の利用者は「区部支給限度基準額が下がってしまう」と逆に考えることを武久委員は従前から問題視しており、事業者・利用者双方の「意識の改善」も重要なテーマとなりそうです。

 

 
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