抗がん剤投与の速度誤り、輸液ポンプ設定のダブルチェックで防止を―医療機能評価機構



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 日本医療機能評価機構が27日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第48回報告書によると、2016年10-12月に報告された医療事故は884件、ヒヤリ・ハット事例は7566件に及びました。医療事故のうち72件(8.1%)で患者が死亡しており、84件・9.5%は患者に障害が残る可能性が高い状況です(機構のサイトはこちら)(前四半期の記事はこちら)。

 また報告書では、抗がん剤の投与実施における医療事故などを詳細に分析しており、多くのケースでは「輸液ポンプなどの設定を複数チェックする」ことなどで防止できる状況にあることも明らかになっています。

医療事故の起こる場面・原因は変わらず、業務フローの再点検を

 この期間に報告があった医療事故884件を事故の程度別に見ると、「死亡」が72件(事故事例の8.1%)、「障害残存の可能性が高い」が84件(同9.5%)、「障害残存の可能性が低い」が222件(同25.1%)、「障害残存の可能性なし」が234件(同26.5%)などとなっています。前の四半期(7-9月)に比べて、死亡事例の割合が0.9ポイント増加している点が気になります。

 医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で338件(同38.2%)、次いで「治療・処置」268件(同30.3%)、「薬剤」65件(同7.4%)、「ドレーン・チューブ」51件(同5.8%)などと続いています。

2016年10-12月に報告された医療事故のうち、8.1%・72件では患者が死亡している
2016年10-12月に報告された医療事故のうち、8.1%・72件では患者が死亡している
 

 事故の発生要因(複数回答)に目を移すと「患者側の要因」がもっとも多く、事故全体の12.0%を占めています。次いで「当事者の確認怠り」11.8%、「当事者の観察怠り」9.7%、「当事者の判断誤り」9.1%などと続きます。当事者側に起因する項目は全体の43.3%を占めています。

 また医療事故が生じやすい場面や発生要因の割合は過去の調査結果と大きな変化はなく、つまり「同じような場面で、同じようなミスがあり、医療事故が生じている」ことになります。「療養上の世話」において、患者側が必要なチューブを外してしまったり、「治療・処置」「薬剤投与」において医療関係者の確認が不足していたりするケースで、とくに業務手順の見直し(ミスが生じない仕組みの構築)や、複数チェックの徹底などを改めて進めるべきでしょう。

 事故に関連した診療科としては、依然として整形外科が突出して多く129件で、医療事故全体の11.7%を占めています。次いで、外科8.4%、精神科6.8%、消化器科5.9%などで多くなっています。整形外科のシェアがやや減少し、内科のシェアが大きく減少しており、今後の動向に注目が集まります。なお、整形外科で生じた医療事故の概要では、「療養上の世話」に起因するものが86件と最多で、整形外科における事故の3分の2(66.7%)、医療事故全体の9.7%を占めています。

ヒヤリ・ハット事例、依然として4分の1は「当事者の確認怠り」に起因

 ヒヤリ・ハット事例については、2016年10-12月の報告件数は8394件ありました。そのうち4177件について影響度を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が93.4%と大多数を占めていますが、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも4.1%(前四半期に比べて0.1ポイント増加)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」も2.5%(同0.7ポイント増加)あることから、現場の手順など見直しを再度行う必要があります。

 ヒヤリ・ハット事例7394件の概要を見ると、「薬剤」が最も多く3483件(ヒヤリ・ハット事例全体の41.5%)、次いで「療養上の世話」1532件(同18.3%)、「ドレーン・チューブ」1171件(同14.0%)などとなっています。「薬剤」に関連する事例が医療事故に比べて多い点は、従前の調査結果と同様です。

2016年10-12月に報告されたヒヤリ・ハット事例のうち、2.5%とわずかではあるが「一歩間違えば、死亡もしくは重篤な状況に至った」ものがある
2016年10-12月に報告されたヒヤリ・ハット事例のうち、2.5%とわずかではあるが「一歩間違えば、死亡もしくは重篤な状況に至った」ものがある
 

 事故の発生要因(複数回答)としては、医療従事者・当事者の「確認の怠り」(24.7%)が依然として飛び抜けて多く、ほか「観察の怠り」7.8%、「判断の誤り」7.0%、「繁忙だった」6.6%などと続きます。医療事故と同様に、「どういう場面で、何に起因して、ヒヤリ・ハット事例が生じるのか」という傾向に大きな変化はありません。前述のように「大事故に直結する可能性のあったミス」もある点を踏まえ、現場の業務フロー(複数チェックも含めて)を早急に再点検する必要があるでしょう。

抗がん剤の投与時、「投与速度」を誤るケースが多い

 報告書では毎回テーマを絞り医療事故の再発防止に向けた分析も行っています。今回は、(1)腫瘍用薬に関連した事例(4回目)(2)蘇生時、アドレナリンを投与するところノルアドレナリンを投与した事例(3)下肢閉塞性動脈硬化症の患者への弾性ストッキング装着に関連した事例―の3点について、詳細な分析が行われました。

 このうち(1)の腫瘍用薬(抗がん剤など)は、▼複数の薬剤を使用する▼患者の体表面積や体重によって投与量を決定する▼当日の検査値などから減量や投与中止の判断をするなど、薬剤の取り扱いに注意が必要である▼患者への影響が大きい―ことなどから、医療事故情報およびヒヤリ・ハット事例が多数報告されています。

 今回は「実施、実施に伴う確認・観察」における事故にフォーカスを絞り、2016年1-12月に報告された腫瘍用薬に関連する医療事故297件、ヒヤリ・ハット事例857件を対象に分析。このうち事故42件、ヒヤリ・ハット335が「実施」に関する事例となっています。具体的には、▼投与速度間違い:事故8件、ヒヤリ・ハット78件▼投与経路間違い:事故8件、ヒヤリ・ハット2件▼対象者間違い:事故5件、ヒヤリ・ハット4件▼無投与:事故5件、ヒヤリ・ハット76件▼カテーテル・ポートの不具合・取り扱い間違い:事故4件、ヒヤリ・ハット11件―などが目立ちます。ほかヒヤリ・ハットでは、「支持療法の間違い」73件、「投与時間間違い」46件なども多くなっています。

抗がん剤投与時(実施時)の医療事故、ヒヤリ・ハット事例としては、「投与速度」の間違いがもっとも多い
抗がん剤投与時(実施時)の医療事故、ヒヤリ・ハット事例としては、「投与速度」の間違いがもっとも多い
 

 投与間違いの医療事故とヒヤリ・ハット86件(事故8件、ヒヤリ・ハット78件)の中身を詳細に見ると、54件・63.0%は輸液ポンプなどの設定間違いで、具体的には▼数字の誤入力13件(86件のうち15.1%)▼速度の計算間違い10件(同11.6%)▼前の設定のままの投与(10.5%)▼流量と予定量(投与量)の入力間違い8件(9.3%)▼他の輸液の速度との間違い7件(8.1%)―などが目立ちます。これらは複数チェックをきちんとすることで防止でき、医療現場の迅速な業務フロー見直しが求められます(関連記事はこちら)。

抗がん剤投与速度間違いのうち6割超は「輸液ポンプなどの設定・変更の誤り」が原因で、複数チェックによる防止が早急に求められる
抗がん剤投与速度間違いのうち6割超は「輸液ポンプなどの設定・変更の誤り」が原因で、複数チェックによる防止が早急に求められる
  

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