在宅医療診療ガイドラインを完成し、在宅医療の「質の底上げ」を推進―全国在宅医療会議ワーキング



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 在宅医療の推進に向けて(1)医療連携、普及啓発モデルの蓄積(2)エビデンスの蓄積―の2本を重点分野とし、国民・行政・関係団体・学術団体が総合連携しながら各々の役割を果たしていくこととしてはどうか―。

 1日に開催された全国在宅医療会議ワーキンググループで、このような考え方(重点分野案)がまとめられました。近く開かれる親会議(全国在宅医療会議)に報告します。

 各関係団体が独自に、あるいは連携して研修などを実施しているほか、日本老年学会が「在宅医療全体の質の底上げに向けた在宅医療診療ガイドラインの完成」を、国立長寿医療研究センターが「研究成果をまとめて情報発信する仕組みの構築」を目指している点が注目されます。

3月1日に開催された、「第3回 全国在宅医療会議ワーキンググループ」
3月1日に開催された、「第3回 全国在宅医療会議ワーキンググループ」
 

国民自らが、地域や家族の状況を見て「在宅医療を選択」できる体制を構築

 いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025に向けて、地域包括ケアシステムの構築が急務とされています。地域包括ケアシステムは▼住まい▼医療▼介護▼予防▼生活支援―の各サービスを総合的・一体的に提供する仕組みで、その要となる「在宅医療」提供体制の整備などが急がれます。厚生労働省は昨年(2016年)7月に「全国在宅医療会議」を、さらに今年(2017年)1月に下部組織である全国在宅医療会議ワーキンググループを(以下、ワーキング)立ち上げ(関連記事はこちらこちら)、まず「在宅医療推進のためには、どのような分野から集中的な取り組みを行うか」(重点分野)を固めることとしました。

 1日に開催されたワーキングでは、次の2項目を重点分野とする考え方が固まっています。

(1)在宅医療に関する医療連携、普及啓発モデルの蓄積

(2)在宅医療に関するエビデンスの蓄積

 在宅医療には「患者のQOLが高まる」などの長所がありますが、一方で「家族介護が必要になる」などの付随的なデメリットも指摘されます。そこで、国民自身が、医師の助言を踏まえながら「地域や自世帯における、家族介護も含めた介護提供体制などに照らして、自分・家族には入院医療が適しているのか、在宅医療が適しているのかを選択できる」体制を整備することが重要という点で、ワーキンググループ構成員の見解は一致しています。

 このため(1)では、自治体や関係団体が在宅医療提供体制を構築していくに当たり参考となる▼医療機関間の連携モデル▼構築に至るプロセス▼普及啓発の取り組み事例―などを整理・収集してくこととしています。また(2)では、在宅医療の質向上を目指す視点に立って、▼疾病の進行や治療など、患者が辿るプロセス▼在宅医療に適した患者の状態、環境条件など▼在宅医療サービスの有効性、手法の標準化―に関する研究を進める方針を示しています。

 こうした重点分野の取り組みは、行政(例えば、在宅医療提供体制整備の責任主体である都道府県)や医療現場が役割分担しながら、かつ相互に緊密に連携しなければ進みません。そこでワーキンググループは、(a)国民(b)行政(c)関係団体(d)学術団体―のそれぞれに、どのような役割が期待されるかも次のように整理しました。

(a)国民:主体的な選択のため、居住地域における在宅医療の情報に積極的に触れ、理解を深めるよう努める

(b)行政:国は「国民への普及啓発」「自治体へのエビデンス・好事例・関連データの提供」などを行い、自治体は地区医師会などと連携・協力し、在宅医療提供体制を着実に構築する

(c)関係団体(医師会など):行政と『車の両輪』となって「医療従事者の教育・研修の充実」「エビデンスに基づく医療実践の環境整備」「データ集積に向けた環境整備」などを行う

(d)学術団体(学会や研究機関):関係団体とともに「在宅医療手法の標準化」や「エビデンスの蓄積」「情報発信のためのホームページなど、エビデンス蓄積の土台構築」などを行う

 前述のとおり「国民の主体的な選択」によって在宅医療が進められる必要がありますが、多くの国民は「選択するに値するだけの情報」を持っていません。そこで厚労省医政局地域医療計画課在宅医療推進室の伯野春彦室長は、「国が自治体に対し『在宅医療に関するどのような情報を提供すべきか』という雛型を示し、自治体ごとに情報提供ツール(例えば冊子など)を提供する形がよいのではないか」との考えを示しました。選択にあたっては「在宅医療の制度」にとどまらず、「地域で在宅医療を提供している医療機関はどこなのか」「訪問看護はどこに頼めばよいのか」、さらに「そもそもどこに相談すればよいのか」という具体的な情報が必要になります。こうした情報を国が一括して提供することは難しく、かつ国民にとって分かりにくいことから、自治体ごとの取り組みが重要になると言えます。

どう体制を整えれば重症患者でも在宅移行できるのか、エビデンスを集積

 親会議(全国在宅医療会議)には、こうした重点分野を進めるに当たり「各関係団体・学術団体がすでに実施している取り組みと、今後進める取り組み」も合わせて報告されます。1日のワーキンググループでは、▼日本医師会▼日本歯科医師会▼日本薬剤師会▼日本看護協会▼全日本病院協会▼日本看護協会▼日本介護支援専門員協会▼日本老年医学会▼国立長寿医療研究センター―から、それぞれ具体的な取り組み内容が紹介されています。

 まず重点分野(1)の「医療連携・普及啓発モデルの蓄積」に関しては、例えば日医・日歯・日薬・日看協では、それぞれ会員に対する研修をすでに実施しており、今後は4団体が連携して在宅医療における多職種連携をさらに進めていく考えです。近い将来、全国で在宅医療・口腔ケア・在宅薬剤管理・訪問看護などを一体的に提供する体制が整うことが期待されます。この点、鈴木邦彦構成員(日本医師会常任理事)は「自治体レベルでは、医師会を中心に4団体が一体化した取り組みをすでに進めている」と強調しています。

 また全日病では、日本老年医学会と連携した研修のほか、「病院に勤務する多職種」を対象とした認知症研修会や看護師特定行為研修を進めています。西澤寛俊構成員(全日本病院協会会長)は、「病院は全職種(医療・介護)による『チーム医療』実践の場である。職種や在宅・入院・外来の垣根を超えた研修を実施している」と強調しました。また西澤構成員は、全日病の提唱する「地域医療・介護支援病院」(仮称、地域包括ケアを担い、24時間対応や認知症対応だけでなく、一定の急性期医療にも対応する概ね200床未満の病院)が、▼直接の在宅医療提供▼在宅医療の支援▼地域の在宅医療の拠点―などの役割を果たす、という在宅医療モデルも提唱しています。

全日病の提唱する「地域医療・介護支援病院」(仮称)、在宅医療・地域包括ケアシステムの拠点となることも期待される
全日病の提唱する「地域医療・介護支援病院」(仮称)、在宅医療・地域包括ケアシステムの拠点となることも期待される
 

 他方、日本看護協会は2015年度から「出向モデル事業」を実施。これは公的病院や地域医療支援病院の看護師が、訪問看護ステーションに3か月間出向し、実際に訪問看護に従事するものです。齋藤訓子構成員(日本看護協会常任理事)は、「出向した看護師は、病院において『もっと早く退院支援・調整する必要がある』『もっと早期に訪問看護ステーションなどとカンファレンスをする必要がある(情報提供のため)』と分かるようになり、病院と訪問看護ステーションの関係がとてもよくなる」という成果を紹介しています。訪問看護にとって「最新看護技術の把握」、急性期病院にとって「急性期度の向上(急性期を脱した患者の早期退院)」、患者にとって「安心感の醸成」などのメリットがあり、こうした取り組みがさらに進むことが期待されます。

 

 また重点分野(2)の「エビデンスの蓄積」については、日本老年医学会から「日本在宅医学界と共同して作成している『在宅医療診療ガイドライン』を完成させる」計画や、国立長寿医療研究センターから「学会による研究成果を取りまとめ、webサイトなどで情報発信する仕組みを構築する」計画などが発表されましたれます。両者とも「在宅医療の質の向上」を目指すものと言え、今後の動きに大きな期待が集まります。

 原口真構成員(国立長寿医療研究センター企画戦略局長)は、「どのような患者が在宅に移行可能なのか、どういった体制を組めば重症の患者でも在宅に移行可能となるのか、こういった点を研究・評価しながら、病院スタッフにも理解してもらうことが重要である」と強調。研究成果を積極的に医療現場にフィードバックしていく考えです。

行政・医師会・多職種の連携が在宅医療推進・地域包括ケアシステム構築の鍵

 1日のワーキンググループでは、在宅医療の好事例として「福井県における医師会などの取り組み」が池端幸彦参考人(福井県医師会副会長、日本慢性期医療協会副会長)から紹介されました。2月16日の前回会合でも、福井県福井市で在宅医療を提供する紅谷浩之参考人(オレンジホームケアクリニック代表)から発表が行われており、いわば「福井モデル」がますます注目を集めそうです。なお福井県では、多職種の協議に基づく「退院支援ルール」を県全体で運用している点でも注目されています。

福井県における退院支援ルールの概要
福井県における退院支援ルールの概要
 

 福井県では、県医師会と行政(県)が連携して▼在宅医療の情報発信・収集▼在宅医療支援(在宅医療材料の共同購入など)▼在宅医療の研修▼在宅医療の啓発・推進―を実施。まさに、これから日本全国で進めようという「医療連携」「普及啓発」を県レベルで実現しています。中でも坂井地区では「26医療機関が連携した24時間対応」「114の医療機関・介護事業所が参加した患者情報共有」などを特長とする在宅ケア体制モデルを構築し、「5年間で在宅医療患者が1.9倍に増加し、医療費の伸びが他地区に比べて4.4ポイント(5億7000万円相当)抑えられた」という成果を上げています。

福井県における、医師会・歯科医師会と県との連携による在宅医療提供体制の構築
福井県における、医師会・歯科医師会と県との連携による在宅医療提供体制の構築
 

 池端参考人は、在宅医療体制の整備・地域包括ケアシステムの構築のためには「県と県医師会、県医師会と郡市区医師会、郡市区医師会と市町村が総合に連携すること、多職種が県単位・郡市区単位で連携すること、さらに情報を一元化することなどが重要」と訴えています。

   

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