「免疫療法」の推進、科学的根拠のない免疫細胞療法と峻別し、がん対策基本計画に明記を―がん対策推進協議会



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 来年度(2017年度)からの「第3期がん対策推進基本計画」策定に向け、がん対策推進協議会は23日に個別テーマの議論を終え、報告書の案文作成作業に入りました。注目される全体目標については(1)予防(2)治療(3)共生―の3点を据える方向がほぼ固まりましたが、「がん対策でもっとも有効なのは検診による早期発見(さらに早期治療)である」あるいは「がん教育を進めることが検診受診率向上などの予防にもつながる。より広く教育を全体目標に据えてはどうか」との指摘もあり、具体的な文言はさらに調整が続けられます。

 また23日の協議会では、第3期計画の中では、「科学的根拠のない所謂『免疫細胞療法』と異なる、新たな治療の柱となる『免疫療法』や、『支持療法』の推進にも触れる必要がある」といった意見が多くの委員から出されています。

2月23日に開催された、「第65回 がん対策推進協議会」
2月23日に開催された、「第65回 がん対策推進協議会」

第3期計画の全体目標、「予防」「治療」「共生」の3本柱に

 我が国のがん対策は、概ね5年を1期とする「がん対策推進基本計画」に基づいて進められ、がん対策推進協議会では、2017年度からの第3期計画策定に向けた議論が続けられています。

 協議会では、これまでに▼がんの1次予防(生活習慣の改善など)▼がんの2次予防(検診受診率の向上や、科学的根拠に基づく検診の実施など)▼がんの手術療法、化学療法、放射線療法のさらなる充実▼希少がん、難治性がん▼医薬品、医療機器の早期開発・承認などに向けた取り組み▼病理診断▼がんリハビリテーション▼相談支援、情報提供▼地域の医療・介護サービス提供体制(拠点病院の役割を含めて)▼がん患者の就労を含めた社会的問題(サバイバーシップ支援)▼ライフステージに応じたがん対策(小児・AYA世代・高齢者)▼がん研究(希少がん・難治性がんを含む)▼がんと診断されたときからの緩和ケアの推進▼専門的な医療従事者の育成▼がん登録―といった個別テーマについて議論を行いました。第3期計画に盛り込むべき項目、つまり今後のがん対策で必要な事項について一通りの議論を終えたことになり、今後は、報告書作成に向けた案文作成作業に入ります。

 報告書、あるいは第3期計画がどのような構成になるのかは、今後を待つ必要がありますが、23日の協議会では、「全体目標をどのように設定するべきか」「諸外国のがん対策で打ち出されている『スローガン』のようなものを打ち出すべきか」といった点について、次のような方向が見えてきました。

 全体目標については、1月19日の前回会合で門田守人会長(堺市立病院機構理事長)が整理した(1)予防(2)治療(3)共生―の3本の柱を据える方向で概ね委員の意見は一致しました(関連記事はこちらこちら)。

 もっとも、山口建委員(静岡県立静岡がんセンター総長)から「がん対策で最も有効な手段は『検診』である。予防と一括りにすると『検診』の重要性が薄まってしまう。1次予防・2次予防を合わせた言葉を用いるべき」との意見が、また中川恵一委員(東京大学医学附属病院放射線科准教授)から「がん検診などの重要性を知らなければ受診せず、まず『知る』ことが必要だ。『がんの社会教育(子供と大人のがん教育)』を打ち出すべき」との意見が出されており、具体的な文言はさらに検討されます。

 また「スローガン」を掲げるべきかどうかについて、桜井なおみ委員(CSRプロジェクト代表理事)や若尾直子委員(がんフォーラム山梨理事長)は「第3期(2017-21年度)のがん対策は何を目指すかを一言で表すことが重要であり。『がんの克服』をスローガンとして打ち出すべき」と訴えました。ただし田中秀一委員(読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員)から「一般の人は『克服』という言葉から『完治』をイメージしがちだが、現実には不可能である。ミスリードの危険がある」との指摘もあり、こちらも具体的な文言はさらに検討が行われます。

科学的根拠のない免疫細胞療法との混同避けるためにも、「免疫療法」を計画に明示

 「予防」「治療」「共生」という全体目標を実現するために、検診受診率の向上や、希少がん・難治性がん対策の充実、新規治療法の開発、がん患者やサバイバーに対する就労支援といった具体的な施策(個別施策)を計画に盛り込み、これらを実施にしていくことになりますが、桜井委員らは「個別施策」を縦糸とし、「各施策に共通する横断的な対策」を横糸とした重層的な取り組みを実現する計画を策定すべきと訴えます。

桜井なおみ委員が提出した、第3期がん対策推進基本計画の構成案。全体目標を「予防」「治療」「共生」で整理し、個別施策(縦糸)と横断的施策(横糸)を明示し、多くの委員もベースの考え方に賛同している
桜井なおみ委員が提出した、第3期がん対策推進基本計画の構成案。全体目標を「予防」「治療」「共生」で整理し、個別施策(縦糸)と横断的施策(横糸)を明示し、多くの委員もベースの考え方に賛同している

 

 横糸となる「各施策の共通する横断的な対策」の中で、「がん研究の推進」が注目されます。例えば、患者個々人の遺伝子情報に着目したゲノム医療の推進や、画期的な抗がん剤の開発などがあげられますが、中釜斉委員(国立がん研究センター理事長)は「免疫療法」をキーワードの一つとして明示すべきと訴えました。

 「免疫療法」は、「免疫担当細胞、サイトカイン、抗体などを活性化する物質を用いて免疫機能を目的の方向に導く治療法」のことで、例えば免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体、オプジーボやキイトルーダ)を用いた治療法などがあげられます(国立がんの運営するがん情報サービスでの用語解説はこちら)。しかし、科学的根拠のない所謂「免疫細胞療法」という言葉が広まっており、田中委員は「混同されてしまう恐れがある」と指摘しました。この点、中釜委員や大江裕一郎委員(国立がん研究センター中央病院副院長(教育担当) 呼吸器内科長)、宮園浩平委員(東京大学大学院医学系研究科分子病理学教授)は、田中委員の懸念はもっともであるとした上で、「免疫療法は手術・化学療法・放射線治療に続く第4の重要な治療法である。正しい理解を促すためにも、定義を明確にするなどの工夫をし、第3期計画でも明記すべきであろう」と強調しています。

 さらに山口委員や中川委員は、がん治療の5本目の柱となる「支持療法」の推進も明記すべきと訴えました。支持療法は「がんそのものに伴う症状や治療による副作用に対しての予防策、症状を軽減させるための治療」と定義され、山口委員は、がん対策加速化プランで支持療法の開発・普及に言及された点を踏まえ、「支持療法は一般の医師にも必須の技術となる。支持療法の推進が緩和ケアの推進にもつながっていく」とし、第3期計画でも明確に記載すべきと強調。さらに山口委員は「疾病だけでなく、患者・サバイバーの研究も含めるべき」と付言しています。

安倍首相、第3期計画の実効性担保のため「ロードマップ」作成を明言

 第3期計画は今年(2017年)6月に閣議決定される予定ですが、がん対策推進基本法改正の影響もあり、協議会の議論は遅れ気味となっており、閣議決定も後ろにずれこむ可能性があります。ただし第3期計画の策定が若干遅れても、がん対策は継続して進められており、予算確保などへの影響は出ません。

 なお第3期計画について安倍晋三内閣総理大臣は、17日の衆議院予算委員会で「改正がん対策基本法に沿う」「計画の実効性を担保するためにロードマップを作成する」との考えを示しています。第2期計画については中間評価が行われましたが、こうした評価がより密に行われることになります。ただし、ロードマップをどの時点で作成するのか(第3期計画と同時に作成するのか、基本計画の閣議決定を受けて作成に着手するのかなど)、どこで作成するのか(厚生労働省内で作成するのか、協議会で作成するのか)などは今後検討されます。

  

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