「軽度者への生活援助」の地域支援事業への移行、要支援者の状況検証が先―介護保険部会(1)



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 軽度者への生活援助サービスなどを市町村の行う地域支援事業に移行すべきか否かについて、要支援者のサービス移行の把握・検証を行った上で検討すべきではないか―。

 12日に開かれた社会保障審議会の介護保険部会では、こういった方向に議論が固まりつつあります(関連記事はこちらこちら)。

 厚労省は一方で、新たに「生活支援サービスを中心に提供する訪問介護」の人員基準緩和なども検討テーマに掲げており、依然として「軽度者へのサービス」が来年(2017年)の介護保険制度改正、および2018年度の介護報酬改定において大きなテーマであることに変わりはなさそうです。

10月12日に開催された、「第66回 社会保障審議会 介護保険部会」
10月12日に開催された、「第66回 社会保障審議会 介護保険部会」

要支援者への訪問・通所サービスの地域支援事業への移行、検証はまだ研究中

 2014年の介護保険制度改正によって、要支援者に対する訪問・通所介護が介護保険給付から市町村の地域支援事業(うち介護予防・日常生活支援総合事業)に段階的に移行していきます。

 一方、来年(2017年)に予定される次期介護保険制度改正では、「軽度者(定義こそないが要介護1・2と考えられる)への生活援助・福祉用具貸与などについても、地域支援事業へ移行すべきか」という点が検討項目に上がっています。骨太方針2015(経済財政運営と改革の基本方針2015、2015年6月に閣議決定)の指示を踏まえたものです。

 このテーマについて介護保険部会では、二度(2月17日7月20日)に渡って正面から議論しており、「要支援者へのサービス移行が途上であり、評価も十分になされていない中では時期尚早」という意見と、「高齢化が進行する中で、介護保険制度の持続可能性を考慮すると移行を進めるべき」という意見が対立しています。

 そうした中、厚労省老健局振興課の三浦明課長は9月30日の前回会合に、「要支援者へのサービス移行状況」の調査結果を報告。▼今年(2016年)4月時点で要支援者への「多様なサービス」を実施している事業所は訪問サービスでは711件、通所サービスでは858件▼主な実施主体は介護サービス事業所、主なサービスの担い手は介護専門職であり、「多様な主体」によるサービス展開はまだ途上▼移行による要介護度の悪化などは見られない―という状況です。

 三浦振興課長は、これまでの議論や調査結果を踏まえて、12日の介護保険部会に「まずは介護予防訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行や、多様な主体・多様なサービスの展開を着実に進める」「事業の把握・検証を行った上で、軽度者のサービス移行を検討する」という考え方を提示しました。要支援者サービスの完全移行が2018年度とされている点、多様なサービスの展開が十分ではない点、事業の検証も未実施な点(現在、厚労省の調査研究班で研究中)を踏まえると、「軽度者の生活援助などの地域支援事業への移行」は、来年の介護保険制度改正には盛り込まれない見通しです。

 ただし土居丈朗委員(慶應義塾大学経済学部教授)は「いつまでも『検証した上で検討』という状況が続いてはいけない」と述べ、遅滞なく検証を行うことを要望。また鈴木隆雄委員(桜美林大学大学院自然科学系老年学研究科教授)は、「完全移行した市町村の状況について、移行していない市町村を『対照群』(コントロール群)として分析・評価すべき」と提案しています。

生活援助中心の訪問介護、人員基準の資格要件などを緩和すべきか

 一方で三浦振興課長は、軽度者へのサービスに関連して次の2つの論点を新たに提示しました。財政制度等審議会・財政制度分科会(財政審)でなされた指摘なども踏まえたものと言えます。

(1)軽度者への生活援助などについて、自立支援・重度化防止といった理念などの観点からどのように考えるか

(2)生活援助などの負担について、要支援・要介護度に応じて違いを設けることをどう考えるか

 

 (1)は、例えば、「要介護度を問わず、生活援助中心の訪問介護について、求められる人員基準(資格要件など)を緩和する」ことなどが考えられると三浦振興課長は説明。現在でも「不足」が叫ばれる介護人材を、身体介護など、より専門性が求められるサービスに重点的に配分することを目指すものと言えそうです。

 しかし、この提案に対しては「人員基準が緩和されれば介護報酬が低く設定されることになる。かえって人材不足が生じ、生活援助から撤退する事業所が出てくることが危惧される」との意見が多くの委員から出されています(鈴木邦彦委員:日本医師会常任理事、伊藤彰久委員:日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長、馬袋秀男委員:民間介護事業推進委員会代表委員ら)。

 ただし、土居委員は「人員基準はサービス内容と連動したものとすべき」と述べ、一定の理解も示しました。さらに「生活援助を十把一絡げに論じてはいけないが、『介護保険の目的である自立支援につながらないようなサービスを万全と提供している』との指摘が相次ぐ点は真摯に受け止めるべきである。この『自立支援につながらない』との懸念を払拭しなければ、いつまでもこの指摘が続く」と警鐘を鳴らしています。

 土居委員の強調した「介護保険サービスは自立に資するものでなければならない」という点には、ほとんどの委員が賛同しており、将来的に「生活援助サービスの自立支援に対する効果」について議論される余地もありそうです。栃本一三郎委員(上智大学総合人間科学部教授)も、「軽度者への生活援助では『便利だから』という部分がある。一方、重度者にとって生活援助は『生きていくために必須のサービス』と言える。きめ細かな議論をしていく必要がある」と指摘しています。

 

 なお、厚労省が、要介護度別に訪問介護における「身体介護:生活援助」の比率(2015年11月審査分データから)を調べたところ、▼要介護1では30対70(生活援助が7割)▼要介護2では38対62▼要介護3では52対48▼要介護4では68対32▼要介護5では80対20(身体介護が8割)―と、軽度者で生活援助の割合が高い状況が浮き彫りとなっています。仮に人員基準緩和などが実施された場合、中心となるのはやはり軽度者となりそうです。

 この「人員基準の緩和」に関しては、2018年度の介護報酬改定論議の中で、介護給付費分科会において具体的に検討される可能性があります。

軽度者への生活援助、保険給付率は現行の9割から下げるべきか

 (2)は、例えば「軽度者の生活援助については、現行の9割給付から大幅に給付率を下げる」ことをどう考えるかというものです。財政審では、「民間の家事代行サービスでは安くても1時間925円(交通費別)であるのに、介護保険の生活援助ははるかに安い187円(自己負担のみ、20分以上45分未満)となっている」とし、利用者負担の公平性も勘案すべきとしています。

 この点については多くの委員から「要介護度の改善に向けたインセンティブがなくなる(逆に、要介護度が上がれば自己負担は減るのでディスインセンティブにもなりかねない)」との指摘が出されました。また、民間家事代行サービスと介護保険の生活援助を単純比較する財政審の議論に多くの委員は「生活援助は単なる家事援助ではなく、利用者の状況把握などプラスアルファの要素がある」と反発しています。

 しかし土居委員は、「金額よりも、介護保険サービスでは1割負担、保険外サービスでは10割負担となっている点が重要である。生活援助を介護保険サービスとして維持するには、内容も精査することが必要であろう」と冷静に分析しました。土居委員は「生活援助における区分支給限度基準額の設定」という提案も行っています。

 一方、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)らは「苦しい選択だが、給付抑制のためには検討もやむを得ない」と述べ、「議論を避けるべきではない」との考えを示しています。

 

 このように「軽度者への生活援助の地域支援事業への移行は、要支援者の状況を検証してから検討する」「生活援助サービスなども、介護保険給付であるからには『利用者の自立を支援するもの』でなければならない」という方向で委員の意見は一致していますが、細かい部分で相違もあります。三浦振興課長は軽度者への支援のあり方について、「委員の意見を詳細に分析して、今後の方針を検討する」と述べるにとどめています。

 

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