2017年度の臨時介護報酬改定論議スタート、定昇規定の整備などを要件にした処遇改善を模索―介護給付費分科会



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 2017年度に行われる、介護職員処遇改善に向けた臨時の介護報酬改定に向けて具体的な議論が始まりました。

 厚生労働省は12日に社会保障審議会の介護給付費分科会を開催し、処遇改善の手法に関する論点を提示しました。今後、通常の報酬改定と同様に、具体的な要件などについて議論を深め、年末の2017年度予算編成(改定率などの決定)を経て、年明けに諮問・答申、4月から新点数が施行されることになります(関連記事はこちら)。

 厚労省老健局老人保健課の鈴木健彦課長は、「処遇改善以外の項目について改定は行わない」ことを明確にしており、項目を限定した報酬改定は診療報酬・介護報酬を通じて極めて稀なものと言えます。通常改定では、ある項目を引き上げる場合でも、他とのバランス(効果・財源などを含めて)などが考慮されますが、こうしたピンポイントの改定についてどのように議論が進められるのか注目が集まります。

 なお12日の給付費分科会では、2015年度介護報酬改定の影響調査(2018年度調査)について具体的な調査票が概ね了承されました。近く調査票が対象事業所・施設に宛てて発送されます(関連記事はこちら)。

10月12日に開催された、「第131回 社会保障審議会 介護給付費分科会」
10月12日に開催された、「第131回 社会保障審議会 介護給付費分科会」
 

アベノミクスの「介護離職ゼロ」実現に向け、介護職員の月給を1万円程度引き上げ

 高齢化が進む中で、介護職員の確保・定着が極めて重要な課題とされており、また「労働に賃金が見合わない(低い)」との現場の声も大きいことを踏まえ、厚労省は、これまでに▼2009年度の介護職員処遇改善交付金(後に加算に組み換え)▼2012年度の介護職員処遇改善加算の創設と、その後の拡充―などの対応が図られてきました。

 しかし安倍晋三内閣総理大臣は処遇改善が不十分と考え、「技能や経験に応じた給料アップの仕組みを創る」などの処遇改善を進め、アベノミクスの新たな3本の矢の1つである「介護離職ゼロ」を実現することを強調。6月2日に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」などでは、「介護人材の処遇について、2017年度からキャリアアップの仕組みを構築し、月額平均1万円相当の改善を行う」方針を打ち出しています。現在の介護職員(勤続6.1年)の賞与込み月額給与26万2300円となっていますが、これを、宿泊業などを含めた対人サービス業の従事者(勤続7.9年)の27万3600円に合わせる狙いがあります(関連記事はこちら)。

 厚労省はこの方針に沿って、「2017年度に介護職員の処遇改善に向けた臨時の介護報酬改定を行う」ことを決定。介護給付費分科会で、具体的な議論がスタートしました(関連記事はこちら)。

 ただし、費用負担者を代表する本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)は、「処遇改善の報酬改定は、保険料の引き上げにつながる(プラス改定ゆえ)。保険料を負担する2号被保険者の中には、パート労働者を始め、介護職員よりも給与の低い人もおり、納得が得られないのではないか」と指摘。また堀田聰子委員(国際医療福祉大学大学院教授)は、「介護職員と他のサービス産業従事者とで、勤続年数や雇用形態などを調整すると、介護職員の給与水準は『中の上』という研究結果もある」ことを紹介し、「介護職員の給与が低水準かどうか、さらに議論し共通認識を持つ必要があるのではないか」との考えも示しました。

 給付費分科会での議論を経ずに、言わば「首相官邸主導」で「ピンポイントのプラス改定を行う」という決定がなされた点には、委員の中に若干の不満もあるようです。

 なお、鈴木老人保健課長は、「厚労省の調べでは、他の対人サービス業に比べて介護職員の給与水準は実際に1万円低い」ことや、介護人材の確保・定着が極めて重要であるとの考えを述べています。

介護給付費分科会では「処遇改善加算での対応」を求める意見が多数

 12日の給付費分科会では、処遇改善に向けて「どのような手法をとるのか」がまず議題となりました。具体的には、「介護職員処遇改善加算」で対応するのか、「介護報酬の本体」で対応するのかという点です。

 本多委員や井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)から「処遇改善は本来、労使交渉の中で行われるもの」、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)から「多職種とのバランスを考えて介護職員の給与アップをためらう事業所もある。本体報酬を引き上げるべき」との指摘も出ましたが、「介護職員の処遇に『確実』に結びつく、処遇改善加算での対応が好ましい」との意見が多いようです。

定期昇給規定すらない介護事業所も多数、改善に資する加算の要件を検討

 処遇改善加算は、2015年度の介護報酬改定を経て、▼月2万7000円相当の処遇改善などが必要な加算I▼月1万5000円相当の処遇改善などが必要な加算II▼IIの9割の報酬が支払われる加算III▼IIの8割の報酬が支払われる加算IV―の4段階になっています。加算を算定する要件として「キャリアパス要件」や「職場環境要件」が設定されており、I、II、III、IVの順に要件が厳しくなっています(関連記事はこちらこちら)。

介護職員処遇改善加算のイメージ、2015年度の介護報酬改定で加算Iが新設された
介護職員処遇改善加算のイメージ、2015年度の介護報酬改定で加算Iが新設された

 では、2017年度の処遇改善加算はどのような仕組みとすべきなのでしょうか。この点について鈴木老人保健課長は、次のような現状と課題を説明し、これらが解決に向かうような仕組みを構築してはどうかとの考えを示しています。

▼介護職員と他の対人サービス業の従業員とでは賃金に前述のような格差があり、また介護職員の給与上昇カーブは他に比べて緩やか(上がりにくい)で、勤続年数の短い労働者が多い(人材の定着が進んでいない)

▼介護職員の中でも「介護福祉士」の占める割合が高まっており、その役割への期待も大きい

▼正規職員(一般職員)についてすら、「定期昇給」の仕組みを設けていない介護事業所が46.5%あり、「定期昇給」の仕組みがある事業所のうち1割では実際の昇給が行われていない(2011年度)

▼定期昇給を行っている事業所でも、「賃金表」に基づいた昇給を行っているところは35.6%にとどまっている(2011年)

 こうした状況について多くの委員から「定期昇給が行われていないのは問題である」「賃金表の定めもない事業所に公的な資金を投入すべきだろうか」という厳しい指摘が相次ぎました(鈴木邦彦委員、本多委員、東憲太郎委員:全国老人保健協会会長、齋藤訓子委員:日本看護協会常任理事ら)。

 また瀬戸雅嗣(全国老人福祉施設協議会副会長)は、介護福祉士の役割が大きくなっている点を踏まえて、「処遇改善にも傾斜を付け、介護福祉士の評価を中心とすべき」と提案しています。

 このように具体的なしくみについては、一定の方向性(介護福祉士への手厚い評価、事業所での賃金・人事評価ルールの構築など)が見えてきており、鈴木老人保健課長は次回会合により具体的な資料を提示する考えです。

「介護職員以外も加算の対象とすべき」との指摘も

 このように介護職員処遇改善加算の見直しをする方向が固まりつつありますが、委員からは「給与増以外の職場環境改善にも、加算を使えるようにすべき」(鈴木邦彦委員)、「介護職員以外も処遇改善の対象とすべき」(瀬戸委員)、「現在の処遇改善加算における職場改善要件などは甘すぎるので見直すべき」(伊藤彰久委員:日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)、「処遇改善にかかる手当の支給は事業所に委ねられているが、毎月支払いなどの要件を考えるべき」(清水紘参考人:日本慢性期医療協会副会長、同会会長の武久洋三委員の代理)といった指摘も出されています。

 今後、こうした指摘も踏まえて具体的な見直し案を固めていきます。

 

 なお、2016年度の介護従事者処遇状況等調査では、委員から指摘されている「他職種とのバランスを考慮し、処遇改善加算を算定していない」(介護職員の給与に合わせて、他職種の給与を上げる余裕がない)という点について、実態はどうなっているのかも調べられます。しかし、調査結果は2017年3月に明らかとなるため、今般の報酬改定論議にはその資料は活用できない点には留意が必要です(関連記事はこちら)。

 

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