要支援者への介護サービス、総合事業への移行による質低下は認められず―介護保険部会(2)



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 今年(2016年)4月時点で要支援者への「多様なサービス」を実施している事業所は訪問サービスでは711件、通所サービスでは858件にのぼるが、その主な実施主体は介護サービス事業所が、主なサービスの担い手は介護専門職であり、「多様な主体」によるサービスのさらなる展開が望まれる―。

 厚生労働省は、9月30日に開催した社会保障審議会の介護保険部会にこのような調査結果を報告しました(関連記事はこちら)。

9月30日に開催された、「第65回 社会保障審議会 介護保険部会」
9月30日に開催された、「第65回 社会保障審議会 介護保険部会」

要支援者へのサービス、地域の実情に応じて多様な主体による実施が望ましい

 2014年の介護保険制度改正で、要支援者への訪問介護と通所介護については、介護保険給付から市町村の実施する地域支援事業(うち、介護予防・日常生活支援総合事業)に段階的に移行することとなりました。

 要支援者へのサービスについては、必ずしも介護専門職が実施主体とならず、地域の実情に応じたより「多様な主体」による実施が望ましいと考えられたものです。

 厚労省は、新たなサービスの形態として、「現行のサービス相当」(訪問介護、通所介護)のほかに、▼緩和した基準によるサービス(生活援助やミニデイサービスなど)【訪問型サービスA、通所型サービスA】▼住民主体による支援(住民主体による生活援助や体操・運動などの通いの場など)【訪問型サービスB、通所型サービスB】▼短期集中予防サービス(保健師による居宅での相談指導や生活機能・栄養状態改善プログラムなど)【訪問型サービスC、通所型サービスC】▼移動支援【訪問型サービスD】―などを例示しています。もちろん、これら以外にも地域の資源を活用した多様なサービスを実施することが期待されています。

訪問サービスにおける、総合事業における事業例
訪問サービスにおける、総合事業における事業例

通所サービスにおける、総合事業における事業例
通所サービスにおける、総合事業における事業例

 完全移行は来年(2017年)4月からとなっており、今年(2016年)4月時点で288市町村において移行が完了しており、今年度(2016年度)中には合計516市町村で移行が完了する見込みです。

総合事業への移行前後で、要介護状態に大きな変化なし

 この見直しについて介護保険部会では「移行による影響(例えば、サービスの質が低下していないか、利用者の要介護度が悪化していないかなど)を調査すべき」との指摘が相次いでいます。この背景には、安倍晋三が2015年6月に閣議決定した骨太方針2015(経済財政運営と改革の基本方針2015)の中で、「軽度者に対する生活支援サービス・福祉用具貸与等やその他の給付について、給付の見直しや地域支援事業への移行、負担のあり方を含め、関係審議会等において検討」するよう指示されている点があげられます。「要支援者のサービス移行について検証が十分になされていない段階で、要介護者のサービス移行を検討するのは時期尚早ではないか」という介護保険部会委員の思いがあると言えます(関連記事はこちらこちら)。

 この指摘を受け、厚労省老健局振興課の三浦明課長は、9月30日の介護保険部会で次のような調査結果を報告しました。

(1)訪問サービスについては、移行直前の2015年3月に1781事業所があり、移行後の2016年4月には現行サービス相当を提供する事業所が1658、多様なサービスを提供する事業所が711。多様なサービスの内訳は、Aが71.7%、Bが11.4%、Cが15.2%、Dが1.7%

(2)訪問の多様なサービスについて、実施主体の74.5%は介護サービス事業所であり、主なサービスの担い手は介護専門職が多い(57.1%)

多様なサービスの実施が、訪問では711事業所、通所でで858事業所ある
多様なサービスの実施が、訪問では711事業所、通所でで858事業所ある

(3)通所サービスについては、移行直前の2015年3月に2344事業所があり、移行後の2016年4月には現行サービス相当を提供する事業所が2256、多様なサービスを提供する事業所が858。多様なサービスの内訳は、Aが64.9%、Bが17.8%、Cが17.2%

(4)通所の多様なサービスについて、実施主体の87.4%は介護サービス事業所であり、主なサービスの担い手は介護専門職が多い(56.5%)

(5)生活支援サービスについては、介護サービス事業所は15.9%にとどまり、民間企業(22.0%)や社会福祉法人(14.4%)など比較的多様な主体が参入している

訪問・通所では、実施主体の多くは介護サービス事業所であり、主な担い手の多くも介護専門職にとどまっており、多様な主体の参加が期待される
訪問・通所では、実施主体の多くは介護サービス事業所であり、主な担い手の多くも介護専門職にとどまっており、多様な主体の参加が期待される

(6)緩和した基準によるサービス(訪問サービスA、通所サービスA)で、どの基準を緩和しているかを見ると、「従業員者数」がもっとも多く、訪問では76.9%、通所では80.6%。

(7)ボランティアの参入によって「苦情が増加した」という報告はない

基準の緩和については「従業員数の緩和」を活用している事業所が多い
基準の緩和については「従業員数の緩和」を活用している事業所が多い

(8)移行後に要支援者数などが大きく増加したという事実はない

(9)移行前後で1か月当たりのサービス利用延べ日数に大きな変化はない

総合事業への移行後に、要支援者が増加したり、サービス利用回数が大きく変化したような状況はない
総合事業への移行後に、要支援者が増加したり、サービス利用回数が大きく変化したような状況はない

(10)移行前後で利用者の状態の変化を見ると、「不変」が要支援2で75.4%、要支援1で79.3%、「軽度化」が要支援2で15.6%、要支援1で0.4%、「重度化」が要支援2で8.6%、要支援1で20.3%となっており、「移行を要因とする状態の悪化」は見られないと考えられる

総合事業への移行によって、要介護度が大きく変化した(悪化した)状況にはない
総合事業への移行によって、要介護度が大きく変化した(悪化した)状況にはない

地域ケア会議では、「事例検討」にとどまっており、地域課題の検討を行っているケースはまだまだ多くない
地域ケア会議では、「事例検討」にとどまっており、地域課題の検討を行っているケースはまだまだ多くない

地域ケア会議では、施策の検討に至ったケースはまだまだ多くない
地域ケア会議では、施策の検討に至ったケースはまだまだ多くない

総合事業への移行促進に向けて、「政策評価」が重要

 こうした調査結果を踏まえて三浦振興課長は、「『多様なサービス』の出現は確認されたが、介護サービス事業者や介護労働者以外の『多様な主体』による取り組みは十分に広まっていない」として、今後も「地域支援事業(総合事業)の取り組みの発展的成長を促す必要がある」と指摘。具体的には、▼総合事業の実施状況について把握、検証を進め、政策の評価を行う▼事務手続きなどの改善を検討する―考えを示しています。

 委員からは「移行事業について政策評価を行う」という厚労省提案に賛同する意見が多数出た(土居丈朗委員:慶應義塾大学経済学部教授、伊藤彰久委員:日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長ら)ほか、「自治体への支援も検討すべき」(齊藤秀樹委員:全国老人クラブ連合会乗務理事)といった指摘も出されました。ただし、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「地域支援事業は市町村の本来業務であり、インセンティブ付与などは慎重に検討すべき」との意見もあります。

リハビリや小多機、介護給付費分科会で人員基準など議論へ

 なお、▼リハビリ▼小規模多機能型居宅介護▼特別養護老人ホーム―について、次期介護報酬で議論すべき論点の一端も示されました。例えばリハビリについては「通所リハと通所介護の役割分担」、小多機については「人員要件や利用定員など」、 特養ホームについては「医療ニーズや看取りへの対応」などが今後、検討されます。

 このうち小多機について、武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は「居宅でのマイケアマネジャーと、小多機のケアマネジャーが連携してケアマネジメントできるようにすべき」と提案したのに対し、栃本市一三郎委員(上智大学総合人間科学部教授)は「小多機では、通い、泊まり、訪問、ケアマネジメントを一体的に提供するサービスとして創設されている」と反論しています。

 

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